さすが王者巨人
第6戦に登板した田中をチーム全体で打ち崩した。何しろ、田中の直球に空振りをしない。スプリットも見逃されボールになる。振りがコンパクトで、坂本、村田でさえバットを短く持って確実にミートする。田中が4点も取られるなんて考えられない。しかし、彼はこの後も安打を打たれ続けたが160球を投げて完投した。最後に高橋由伸を三振に取った球は152キロを計測した。
しかし、熱投も虚しく4対2で敗れた。
ミーティングでの出来事
この夜の敗戦後、星野監督はミーティングでこう伝えた
「ここまで来たのは田中のおかげだ、野球とはこういうこともあるんだ、ここまで連れて来てくれてみんな有難う。しかしせっかくここまで来たんだから明日は勝たせてくれ、俺を泣かせてくれ」
田中のベンチ入り
試合前「ベンチに入りたい。」と田中が言った。星野監督は「ベンチに入るぐらいは、いいだろう」と言う軽い気持ちだった。ところが田中は、正式にベンチ入りメンバーとして登録して入りたい、との事だった。
「ベンチ入りすると言う事は、今日投げる事がある、ということだぞ」。星野は語気を荒げた。
田中がブルペンに入る時、「本当に大丈夫だな¦」星野は3回言った。
思えば、若き現役時代、星野仙一にも同じ出来事があった。
王、長島の2枚看板の全盛期の巨人相手に先発し、序盤で打ち込まれ大差で負けた事があった。
明くる日、ピッチングコーチが頭を抱えて、当時、監督だった水原の元へやって来た。
「監督、星野が、今日も先発で投げさせろ、と言ってます」
「だったら、行かせればいいじゃないか」水原は即答した。
水原監督は、この年からドラゴンズに招かれた巨人出身の大監督だった。
若き星野は2日連続で先発で投げた
前日先発で投げたピッチャーが、2日連続で先発で投げるなんて現代野球では考えられない。
若き星野はジャイアンツに立ち向かった。前日とは違って、見違えるピッチングでバッターを次々と討ち取っていく。しかし、好投も虚しく、接戦の末、またもやジャイアンツに敗れた。
試合後、星野は、精根尽き果てベンチ裏で一人うなだれていた。
そこへ、水原監督がやって来た。
そして、ベンチの横に座り星野に握手を求めた。
「いいか星野、今のお前のその気持ちを忘れるな、やられたらやり返すんだ¦」
そして、運命の日本シリーズ第7戦
ついに、前日登板した田中将大が抑えで登場した。
しかし、村田がコンパクトにセンター前にヒット。2死からロペスが150キロをライト前にクリーンヒット。前日、同様、直球をコンパクトにミートしてランナーをためる。ホームランが出たら同点だ。
そして、巨人は代打矢野を送る。ここからすべて、スプリットを投げる。代打のバッターはこの球に目が慣れていない。しかも明らかに、一発狙いだ。
そして見事三振。
星野監督が宙に舞った。
星野監督はきっと、自分の姿を田中にダブらしていたんだろう