1956年6月26日、阪神対広島戦での出来事。
広島の先発、太田垣喜夫は絶好調で8回まで阪神打線を無得点に抑えていた。
9回の裏、一死、二三塁で代打に真田重蔵を告げた。
監督兼内野手の藤村富美男はこの時、ベンチでなくコーチボックスにいた。
その真田が四球を選び、満塁となった。この当時、選手層が薄く、代打がいなかった。
でも一人とっておきの代打がいた。ところが、監督としては自分から言いにくい。
その時ベンチにいた主将の金田正泰は「代打で出てください」と言った。
藤村はけげんそうに「何、わしか?」と言ったがこれが大芝居。
千両役者の登場に甲子園のスタンドは大喜び。
打席に入ってからも藤村は一芝居を打った。シュートが武器の長谷川良平に対して2球目まで左足を大きく開いて構える。裏をかいて3球目はアウトコースに投げた。
待ってましたとばかりに、大きく踏み込んで引っ張った。
打球は、左中間スタンドに消え、代打逆転サヨナラ満塁ホームランとなった。