全員グランドに出てこい！
昭和42年9月9日の深夜の明大野球部に島岡御大（吉郎）の野太い聞きなれた怒号に合宿所の全員が飛び起きた。
部屋の窓を開けると、グランドの中央に島岡監督が目に飛び込んできた。
グランドの中央、マウンドの手前付近にパンツ姿の御大が居る。
キャプテンの高田繁、若いくせにドスの効いた星野仙一の声が響き渡る。
「みんなパンツ一丁でグランドに集まれ」
数分を待たず57名の部員全員グランドにパンツ一丁でぞろぞろ現れる。異様な光景。
季節は9月とはいえ、小雨交じりの深夜である。裸同然でかなり寒い。
そして集まった選手の前に御大の怒号が夜空に響き渡る。
「グランドの神様に謝れ！」
御大を先頭に全員がバックスクリーンに向って座り込み地べたに頭と顔を擦り付ける。
この日の東京六大学リーグ戦、無気力野球で早稲田に大敗を喫した。
星野は自らのエラーで四回KO。合宿所へ帰る電車の中で御大は一言も発しない。全員が無言のまま。合宿所に戻っても、御大は自室に閉じ困じこもったままだった。
この日の無気力なプレーを御大が許すことが出来なかったのだ。
「すみませんでした。申し訳ありません」星野をはじめ全員がグランドに頭を擦りつけ謝り続ける。雨の暗闇の中で延々二時間これが続いた。
「命がけで当たれ、誠意を尽くせ、魂を込めろ。」
勿論、その中央にはずんぐりむっくりの60歳の島岡御大の姿があった。
島岡の指導法は「島岡人間力野球」と評され、便所掃除など、人が嫌がる仕事は一年生に押し付けず四年生に遣らせた。
但し、四年生の就職活動の際は、各選手の志望企業すべて島岡自身が出向き教え子をひたすら推薦したという。
ひたすら謝った星野仙一
星野仙一が一度だけトイレ掃除をさぼった時、島岡は星野をトイレに連れていき、星野を説教しながら自身がトイレ掃除を行ったあと、
「こんだけ綺麗にせんと掃除したとは言わせん」と言い、
便器を舐めた。それを見ていた星野は「この人には何をしてもかなわない」としてひたすら謝ったという。
