甲子園球場で、堅田審判と場内アナウンスをされると、古くから高校野球を良く知るファンの拍手が起こる。
その、堅田外司昭さんが2021年の夏の甲子園大会の決勝、智弁学園対智辯和歌山との塁審を務め、勇退しました。
1978年の夏の伝説に残る名勝負
簑島は石井毅(西武入団)。星稜が堅田外司昭の両先発で、この試合が始まりました。
4回の表、投手堅田が自らのタイムリーで先制。しかし、その裏、簑島も森川のタイムリーで1点を取り、すぐさま同点となりました。
その後、両投手の好投で9回を終わり1-1で延長戦に入りました。
12回に星稜が1点勝ち越すが…
星稜が12回の表に、セカンドエラーで待望の1点を取りました。
その裏12回も2死となり、あと一人でゲームセットとの場面で、打席に入った嶋田宗彦(阪神タイガース入団)は監督に「ホームラン狙ってもいいですか?ホームラン打ちます」と言って打席に入りました。
堅田投手の、2球目のカーブを振り抜くとレフトスタンド、ラッキーゾーンに入るホームラン。やったぞとばかりに、嶋田は塁を廻り、ベンチの尾藤監督も笑顔で嶋田を迎え入れる。
14回に簑島が1死3塁のサヨナラのチャンスを迎えましたが、三塁手の隠し玉で、三塁ランナーの森川康弘がタッチアウトでチャンスをつぶしました。
そして16回の表、星稜が2死から、キャプテン山下のタイムリーヒットで、1点を奪い、再び勝ち越しました。
球審も試合に飲み込まれていく
この試合の球審、永野元玄は、次第にこの試合のゲームに飲み込まれていくのが分かりました。
試合に対して、情が入っては駄目なんですが、「18回まで試合が出来たらいいな」と球審の永野は思っていました。そして、自分のジャッジひとつでゲーム展開が変わってしまう、正確にジャッジをしなくてはならないと思いました。
そして16回の裏、簑島の攻撃も2死となり、6番打者、森川康弘が打席に入りました。
先程、チャンスで3塁ランナーとして、隠し球でアウトになった選手です。
しかし、簡単に2ストライクを取られ、3球目もファーストフライを打ち上げ、万事休すかと思われました。
運命の人工芝
しかし、ファーストを守る加藤直樹が、この年からファウルグランドに、敷設された人工芝に足を取られて転び、ボールを落としてしまいました。
その後、森川が1-2と追い込まれながらも、高めのカーブを強振すると打球は左中間スタンド、ラッキーゾーンへ吸い込まれました。
この森川は、練習試合でも1本もホームランを打ったことがありません。信じられないような表情で塁上を駆け抜ける。甲子園球場全体が興奮の坩堝となりました。
NHKテレビのアナウンサーが、「奇跡と言うより仕方がありません」と実況。
非情の場内アナウンス
延長18回を迎えた時、この回で決着がつかなかった場合、明日の第一試合に再試合を行う、と場内アナウンスがありました。
このアナウンスに球審の永野は残念に思いました。
実際にマウンドの堅田も「また、明日も朝から投げるのか?」と思ったそうです。
その気の緩みが投球に出てきたのかもしれません。
簑島の先頭打者に四球を出してしまい、続く打者は打ち取ったものの、次打者に四球を与え、1アウト1,2塁のピンチを向かえました。次打者、上野の打球は無情にも、詰まり気味にレフトの前にヒット、セカンドランナーがホームにヘッドスライディングで生還し、長いゲームにピリオドを打ちました。
球審の行動
試合終了後、球審の永野元玄はベンチ裏で、堅田選手が来るのを待っていました。一声かけずにはいられなかったのです。
「もう一回、グランドを見ておいでご苦労さん」と言って、試合で使った試合球を渡しました。ウイニングボールでは、試合の残像が残ってしまうので、あえて、試合途中で使用したボールを渡しました。
堅田さんは、「一生の宝物です。このボールを見るたびに、あの試合に恥じない生き方をしよう」と思ったそうです。
そして、自らも高校野球に恩返しがしたいと、審判員の道に進みました。
2018年8月5日の100回レジェンド始球式では、ピッチャーが石井毅、球審が堅田、そしてバックネット裏には、延長28回の球審を捌いた永野さんの姿がありました。
永野さんは、後に、高校野球の審判は、教育者でなければならないと語っています。