10.19川崎球場ロッテ対近鉄戦の思い出

昔のパリーグは、今では考えられない位、人気がなく野球場も3000人ほどの観衆しか集まりませんでした。しかも、入場者数も、今では実数の集計が発表されていますが、当時は主催者からの発表で、水増しのいい加減な数字でした。

特に川崎球場はロッテ球団の不人気、球場、設備も古い、駅からのアクセスも良くないこともあり毎試合閑散としていました。

みのもんた司会の珍プレー好プレーでも、熱いカップルが抱擁を重ねたり、球場内でキャッチボールをしたり、はたまた、流しソーメンをわざわざ持ち込んで食するなど、今では考えられないローカルな野球場でした。

しかし、この試合だけは熱気に包まれ、観客も球場の外側まで溢れ、樹木や照明搭に登る人、民家の屋根から観戦する人もいて大賑わいをみせていました。

13日間で15連戦の近鉄

この年1988年のパ・リーグの優勝争いは西武と近鉄に絞られていました。

首位西武ライオンズは全日程を終え、近鉄バッファローズの残りの試合、13日間で15連戦という超過密日程の中勝ち進み、あとはロッテとのダブルヘッダーを残すのみとなりました。そして、この試合を連勝するしか優勝の道が残されていませんでした。

舞台は川崎球場。第一試合は、初回から愛甲に2ランホームランが飛び出し、近鉄が追う苦しい展開でした。両チーム1点ずつ取り合い、3-1で2点ビハインド。

追う近鉄は8回の表、1死1,2塁のチャンスを掴み、この場面で代打に村上隆行を出しました。「ここで出してくれないなら、自分でバットを持って行くつもりでした」と村上。起死回生の一打は左中間ファンスの金網に当たり、タイムリー2塁打となり同点。珍しく何度も、コブシを上げガッツポーズをみせました。しかし、引き分けでは規定により第二試合に進めません。

起死回生の梨田のタイムリー

引き分けのまま、9回を迎えました。1死から淡口憲治が2塁打で塁に出ると、鈴木貴久がヒットを放ちましたが、代走の佐藤純一が3本間に挟まれて憤死。この佐藤がアウトになった彼の姿はまさに顔面蒼白。

しかし、ランナーが2塁に残り、2死2塁の土壇場で登場したのが代打梨田昌孝でした。梨田はもう引退を決めていた為に事実上最後の打席でした。

投手は抑えの切り札牛島。梨田は、「不思議に無になれた」という。

牛島のストレートに詰まりながらもセンターに運ぶと、2塁ランナーの鈴木がホームへ突入。クロスプレーでセーフになると中西コーチと抱き合いゴロゴロと転げまわる。この試合の名場面となりました。

9回の裏2死満塁のピンチを向かえるも、阿波野が三振に斬って捕り鮮やかな逆転勝ちを飾りました。

看板番組ニュースステーションを中断

何しろ、ドラゴンズファンの私が、風呂場までラジオを持ち込んでこのゲームを視聴していました。東海地区は、この試合第一試合のテレビ放送がありませんでした。

そして、私の日課は、10時からテレビ朝日の「ニュースステーション」を見る事でした。

テレビを着けると、久米宏が「川崎球場が大変なことになっています」と言って画面が野球中継に変わりました。当時は、野球放送と言えばジャイアンツ戦の試合しか放送しませんでした。

もう優勝は近鉄でええやん

その頃、西武球場では、西武の選手全員が宿舎の食堂に集まり、この試合を観戦。近鉄が破れると、その時点で西武の優勝が決まる為、集まって待機していたのです。

ここで西武ナインはもちろん、ロッテを応援していましたが、近鉄の必死な姿を見てだんだん気持ちが傾いて来ました。イニングが進むにつれて、あろうことか、誰もが近鉄を応援する気持ちになっていったそうです。

そして、「もう近鉄でええやん」と誰ともなく言ったそうです。

連投の阿波野

第二試合は、近鉄がリードし、ロッテが追いかける攻防。引き分けのまま、終盤に入りましたがブライアントが勝ちこしホームランを放ちました。誰もが、このまま、近鉄が逃げ切ると思われました。

しかし、連投の疲れからか、阿波野秀幸が8回に高沢秀昭から同点ホームランを浴びると延長戦に突入。2塁の牽制タッチアウトを巡って有藤監督が執拗に抗議。その影響もあり、時間が無くなりそのまま引き分け。惜しくも近鉄の優勝は無くなりました。

伝説となった10.19

バックネット裏には、骨折でベンチ入りできなかった金村義明が号泣し、ブラウン管には引き分けのまま、近鉄ナインが涙を浮かべながらむなしく裏の守備に就きました。    

この熱い戦いは、全国の野球ファンの心を揺さぶり感動を呼びました。

近鉄バッファローズはもちろん、こんな熱い戦いをみせてくれた、ロッテナインの皆さん、ありがとう。この試合の出来事は一生忘れる事は無いでしょう。

川崎球場跡地は現在富士通スタジアムとなっています

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