以前ある名古屋のホテルに勤めていた時に、名球会の食事のサービスをしたことがありました。今回は、その時のお話をさせて頂きます。
それはもう16年ほど前の話になります。人数はおおよそ10名ほどでしたが、そうそうたるメンバーでした。
金田正一をはじめ、鈴木啓示、米田哲也 、山田久志、張本勲、柴田勲、駒田徳広、有藤通世、衣笠祥雄、などの気難しい人ばかり(笑)。
世界のホームラン王、人格者の王貞治さんはいませんでした。
マナーの良い野球人
岐阜のホテルにいた時は、藤田元司さん、高木守道さん、森祗昌さん、ともお会いしましたが、皆さんいい人ばかりでした。藤田元司さんは、世界少年野球大会という催しで来館され、2日間お会いしました。「君のおすすめは何だね」と聞かれ、お帰りの際には、「おすすめの料理は美味しかったよ」とお褒めの言葉を頂きました。
話は、名球会に戻ります。
まず、皆さん集まらないうちに、会合が始まり、ワインを持ってきてくれ、いや、「持って来い」という言い方でした。張本さんが「一番高いシャブリを持って来い」ということで、食事会場には置いてないので、わざわざ、下の階のフランス料理のレストランまで、借りに行きました。
すると今度は金田さんが、「一番美味しい赤ワインを」と難しい事をおっしゃいました。赤ワインなんて安い物から、40、50万するものまでピンキリなので、飲み放題で使用している適当な赤ワインを出しました。
![](https://i0.wp.com/baseball-somurie.com/wp-content/uploads/2022/02/Masaichi_Kaneda_1956_Scan10003.jpg?resize=275%2C367&ssl=1)
全て命令形で注文
食事が始まると、今度はY氏が、煙草をくれ、と言われましたが、どうやら「買って来い」と言うことではなく「欲しい」ということなので、自分のポケットから1本出し、火を着けて上げました。ちなみにお礼もあるわけではなく、お返しをされたわけでもありません。本当に「くれ」ということでした。(笑)
すると今度は、張本さんが同じワインを持って来い!ということでまた、先ほどのフレンチまで取りに行きました。
食事のマナーとか、気遣いとかは全くありません、好きなものを好きなように食べる予算も何もありません。名球会の会費なのでしょう。大御所の人ばかりで、若い名球会の会員が出席していない理由がなんとなく分かりました。
悲しいしい話し
みなさんの会話の中で、元タイガース、ドラゴンズで名参謀と言われた、島野育夫さんが、「そろそろ危ない」という話を聞いて非常に残念でした。
島野さんは、星野仙一監督のお気に入りで、常に島野さんを連れてチームを渡り歩いていた人物です。その時は皆さん神妙な面持ちになり、一瞬、食事会の空気が重くなりました。
衣笠さんとの一生の思い出
その中でも、衣笠さんだけは別格でした。周りの人を気にしながら食事をしていた印象があります。いや、おそらく居づらかったのかもしれません。
そのせいか、少し早く退出しました。丁度私は、その時、偶然にも衣笠さんの著書「野球の夢一途に」を読んでいたところでした。衣笠さんが退出しやすい様に、ドアを開ける瞬間、その本の感想を本人に伝えると、「ありがとう」と言われて握手をして頂きました。
とっても肉厚でふんわりしていました。その感触が忘れられません。
数々の有名人にあいましたが、一番感動する瞬間でした。
他の名球会のメンバーは働く私達にとってまさに「迷急怪」でした。